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福岡高等裁判所 昭和33年(ラ)148号 決定 1958年10月06日

抗告人 大塚京

主文

原決定を取り消す。

本件競落は許さない。

理由

抗告人は原決定を取り消し更に相当の決定を求める。抗告理由は別途提出すると主張した(当審の決定まで理由書の提出はない。)。

職権をもつて調査するに、記録中の土地登記簿謄本及び執行吏の不動産賃貸借取調報告書によると、本件土地中少くとも七坪五合は昭和三〇年五月以来牛島義春において賃借し同地上に建坪七坪五合の家屋を建築所有しており、また本件土地は(少くとも右賃借部分を除く残余の土地は)森田トリ子が昭和三三年三月五日賃料月五〇〇円毎月々末払、賃貸期間五年と定めて賃借し、翌六日その旨の賃借権設定登記を経由しており、右二個の賃借権中后者は競売申立人たる本件土地の抵当権者に対抗しうるもので(本件土地には同抵当権の外に担保権は存在しない)。前者すなわち牛島義春の賃借権は、もし同人においてその所有家屋につき所有権の登記を経ておるとすれば、前示抵当権者に対抗しうると解すべきである。しかし、いまこの点はしばらくおいて、本件競売期日の公告には当然后者すなわち森田トリ子の賃借権は掲ぐべきであるのに、同公告にその掲記を欠くことは、記録中の競売及び競落期日公告に徴し明らかであるから、原審は競売法第三二条第二九条民事訴訟法第六七四条第六七二条第四号第六五八条第三号により競落を許すことなく新競売期日を定むべきであつたのに(同法第六七七条参照)競落を許したのは違法である(原審の競落期日前に抗告人は原審に異議申立書を提出してさえいる)、から同法第六八二条第三項により原決定を取り消し、競落を許さないこととする。(記録によると、抗告人は本件土地の所有者兼債務者であるから、本件土地に賃借権が存在するとして競売されるよりも賃借権がないとして競売される方がより高価に競売されるので、本件の競落許可決定により損失を被らないので、抗告利益を有しないとの反対説も考えられる(同法第六八〇条第一項)が、民法第五六八条第五六九条の規定によりあるいは競落人から損害の賠償を請求されるという不利益を被るので、右反対説は採りがたく、本件のような場合、抗告人は民事訴訟法第六八〇条第一項の抗告利益を有すると解すべきである。)

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 鹿島重夫 秦亘 山本茂)

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